君だけの星へ
「だけど、不思議なものだ。うちの常連さんだった桐生さんが、世莉ちゃんの家庭教師になるなんて」

「わたしだってびっくりしたよ……あやめ堂で会ったその日のうちに、今度は自分の家でまた顔を合わせるんだもん」



しみじみと話すおじいちゃんに対し、拗ねたように唇をとがらせて返す。

──お客さんから預かった本を落としてしまって、状態を確認できないままお返しすることになってしまって。

落ち込みながら家に帰ったら、なぜか自宅にそのお客さんが来ていて。

そしてお母さんが言うには、その人は学校の成績が芳しくないわたしの家庭教師をしてくれるという。

話を聞いた直後、一体これはなんのドッキリなのかと思った。



「でもきっと、桐生さんだって驚いていただろう?」

「……さぁ、どうだかね。なんかずっと落ちついた態度だったし」

「ああ、確かに彼はいつもそんな雰囲気だねぇ」



それからおじいちゃんはカウンターにうつぶせたままのわたしに「紅茶を淹れ直してくるよ」と言い残し、店の奥にある自宅の方へと消えた。

その背中を見送って、こっそりため息をつく。


……わたしが誤って桐生さんの本を破ってしまったことは、実はおじいちゃんに教えていない。

このあいだ思いきって桐生さん自身に、破れた本をもう1度(もちろんわたしが弁償するつもりで)あやめ堂に預けるか訊ねてみたら……「別にこのままでいい」と、はっきり言われたからだ。
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