冷徹上司のギャップに振り回されています
どんな規則だろう? 

あまりに厳しすぎたら、それを守り切れなくてクビなんてことにもなるかもしれない。
しかも、上司はクールなこの人。ものすごく細かくて、難しい内容だったりして……。
 
一気に不安になってゴクリと喉を鳴らし、再度、東海林さんを見る。
パチッと視線がぶつかると、東海林さんはさらりと三つの規則を口にした。

「所内外問わず、交わした約束は厳守すること。ミスは隠さないこと。仕事に私情を挟まないこと。以上」
「えっ……あ、は、はい!」
 
構えすぎていたせいか、思ったほど難題とは思えない規則に拍子抜けする。
 
約束厳守に、ミスは隠さないこと。最後が、私情を挟まないこと、か。

それなら私でも大丈夫そう! 
……三番目は、ちょっと気を付けておこうかな。私、すぐに感情的になりそうだし。
 
ひとりで小さく頷き、早速与えられた席へと移動する。
すでにパソコンに向き合っている本田さんに「よろしくお願いします」と改めて挨拶をすると、彼も「よろしくね」と、また笑顔を向けてくれた。
 
席に着いて改めて見ると、私のデスクの上にもパソコンが一台設置されている。
電源を恐る恐る入れ、画面に意識を集中させた。
その時、突然デスクの上で、ドサッという重量感のある音に肩を上げた。

目を大きくして顔を上げると、東海林さんがメガネを光らせ、私を見下ろしている。

「これ。全部ファイリング」
「は、はい」
「それが終わったら、こっちの帳簿入力。そのパソコンについては本田に聞いて」
 
東海林さんは一ミリも笑ったりせず、本当に必要事項だけを口にする。
さらには、質問させる間も与えずに、こう続けた。

「事務経験があるなら、教えなくてもこの程度は容易に出来るだろ?」
 
あっさりと突き放す言葉を発し終えると、帳簿の束をデスクにバサッと置いて、席に戻っていく。
 
……ほんっとーに優しくない。

いや、昨日のやりとりで冷たいのはわかっていたけど、それにしてもだ。
さっき三浦さんが、優しいとか言っていたけど、あれは本当にジョークにしかならないな。
 
私は東海林さんの機械的な態度にモヤモヤとしながら、こっそりとパソコン越しに彼を盗み見る。
その変わらぬ東海林さんの涼し気な顔に、心の中で悪態をついて舌を出した。

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