冷徹上司のギャップに振り回されています
「私は三浦という者です。もう六十超えてるのに、まだここにお世話になってるんだよ」
「えっ。六十歳超えてらっしゃるんですか?」
 
まだ五十代前半から半ばくらいかと思った! 
髪もそんなに白くなってないし、声も若々しいし。還暦過ぎてるだなんて、本当にそんな感じがしない!
 
驚いて思わず声を上げると、三浦さんがニコニコと屈託ない笑顔で気さくに話をしてくれる。

「優し~い所長でね。お慈悲で置いてもらってるようなものだけどね」
 
三浦さんは、わざとらしく東海林さんを『優しい』って言ったけど……それ、きっとここにいるメンバーの中では、三浦さんしか言えないことだと思う。
 
またもや返答に困っていると、本田さんがノートパソコンを開きながら笑った。

「また、そんな。三浦さんは、東海林さんが絶大な信頼を寄せてる大きな存在じゃないですか」
 
そんなふうに笑い合えるふたりの空気は、和気藹々としていて自然と頬が緩む。
その時、そんな和やかな空気を一変させるひと声が、正面から飛んできた。

「雑談はその辺で。もう業務時間だ」
 
次の瞬間、ぴたりと笑い声を止めたふたりを窺うと、すでに仕事モードに切り替わっていた。
切り替えがすごいと感嘆していたら、東海林さんが人差し指を本田さんの方へ向けた。

「有川のデスクはあっち。都度、仕事を回す。――その前に」
 
示された方向には、本田さんの席の隣に空いたひとつのデスク。

本当のことを言うと、さっきちらっと部屋を見回した時に、たぶんあそこが私の席かなとは思っていた。
予想通りだった、とデスクに視線を注いだままの私に構わうことなく、東海林さんは話を続ける。

「ウチでの規則を三つ、伝えておく。一度しか言わない」
 
き、規則?
 
改めてそう言われると緊張が走る。
口元を引き結び、気を引き締めて東海林さんと向き合った。

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