片恋

【記憶 三】

【記憶 三】



それからのおばけは

びんをかたときも
はなさないようにして

あかいおさかなを
とてもだいじにしました。



遼平・十歳

琴子・六歳 



遼平が小学校から帰ると、
自宅の門の所にランドセルを背負った琴子がしゃがみ込んでいた。

「りょうへいくんーー。怖かったよーーっ」

遼平の姿を目にするなり、
涙でぐしゃぐしゃの顔で突進してきて抱きつく。

「わ、何だ来てたのか。言っといてくれればよかったのに。
今日誰もいないんだよ」

「へんないぬがついてきたーー」

「ええっ。で、どうしたの?」

「給食のパンをね、ちぎりながらかえってきた」

「うわお。そりゃ、ついてくるよ。」

見れば、離れた所で小さな犬がうろうろしている。

時々こちらをうかがうように、
立ち止まったり、しっぽを持ち上げたりとせわしない。

遼平が屈み込んで、呼び寄せるように手を差し出すと、
そろそろと、しっぽを振りながら近寄ってきた。

充分に近づいた所で、そおっと首のあたりをなでてみる。

「ちっさ・・・!
ひとなつっこいし、迷子かな。

ほら琴子、怖くないよ」

「ぅえーー?ちいさいけどーー」

まずい物でも食べたように顔をしかめて、
手を伸ばすものの全くさわろうとしない琴子を見て、遼平が笑う。


「怖がりだなあ、琴子は。」


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