葉桜~late spring days
待ち合わせ
 あの時、私は一人で追いこまれていた。無意識のうちに自分を追い込んでいた。

 気がつくと、誰もいない練習部屋で、携帯で帰る路線を調べていた。合宿の宿泊先の最寄駅、そこから家へ帰るにはどうすればいいのか、いくらかかるのか、自分の財布にいくら入っているか。

 「お、早いじゃん」

 顔をあげると奏太がいた。うなづくことしかできなかった。

 帰りたい。一刻も早く、ここから消えたい。

 楽しかったはずの音楽に、ここまで苦しめられるなら、もうやめたい。楽器を始めた中学の時からここまで、辞めたいと思った事は一度もなかった。でももう耐えられなかった。うまく演奏できない自分や、周りに迷惑をかけている自分に。

 「どうした?暗いけど。何見てんの?」
 「奏太、お金貸して」
 「いくら?何に使うの?」
 「帰る」
 「どこに?」
 「家に」

 思いもよらない答えに、楽器を組み立てていた奏太の動きが止まった。
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