黄昏に香る音色
とめどもなく
赤い点滅が、録音中を示す。

スタジオの中、

ただ流れる音に、身をまかせて、

啓介は、サックスを吹く。

サックス以外は、取り終えており、

啓介の音をいれた後に…そのカラオケに、歌をいれる。

こんなただの音入れに、

何も得るものはないが、

恥ずかしいプレイだけは、したくない。

スタジオミュージシャンは、自分の色を出さず、そつなくこなすだけ。

上手ければいい。

だから、啓介はテクニックやフレーズは、指示通りにしかしない。

だからこそ、

啓介は、音色に拘った。

音だけで、俺とわかるような音色。

声なら簡単だ。

有名な歌手なら、特徴があればわかる。

しかし、楽器は…。


それは音楽の歴史で、ほんの一握り。

日本人では、いないだろう…。

このレコーディングのメインの人物は、知らない。

知る気もない。

どんな仕事も断らずに、受けた。

ラジオから流れて、初めてわかるのもあった。

しかし、吹いた自分だからわかるだけで、

誰が聴いても、

啓介とわかるレベルではない。

マイルスやコルトレーンに、ゲッツ、バードにアームストロングに、ジミヘンにピアソラ…

数少ない音色の革新者。

テクニックやフレーズなんて、

ある程度は、できるようになる。


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