黄昏に香る音色
第三部 Singer's Dream

伝える者

どこまでも続く海岸。

青い空。

覚えてるのはそこまでだった…。

気がつくと、闇の中…

ほんの小さな灯りに、暖かな毛布に包まれていた。

体を起こすと、灯りの向こうに老婆と、小さな子供がいた。

子供は、老婆にしがみつきながら、じっとこちらを見ていた。

「気がついたかい?」

老婆はそう言うと、椅子から立ち上がり、別の部屋に消えていった。

子供はまだ、こちらを見ていた。

和美が微笑みかけると、

子供は照れたように、老婆の消えた方に、走っていった。

「ここは…」

和美は、ベッドの上にいた。

横にある小窓から、空をみると、

日本とはちがう星空が、広がっていた。

「海岸近くで、倒れておったんじゃよ」

老婆は暖かいスープを持って、戻ってきた。

和美のお腹が鳴った。

「お腹が、すいとるじゃろ。行き倒れなど、久々に見たわ」

和美は、老婆の言葉を何とか理解できた。

フランス語…少し訛りがある。

和美が遠慮していると、

「早く食べんと冷めるよ」

老婆の優しい眼差しに、

和美は、手を合わせると、スープをいただくことにした。

老婆の後ろから、子供が出てきて、和美がスープを飲む様子を見守っている。

老婆は、子供の頭を撫で、

「この子が、あんたを見つけたんだよ」

和美は、スープを飲む手を止めて、子供に微笑んだ。

「ありがとう」

真っ赤になって、子供はまた…老婆の後ろに隠れた。
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