黄昏に香る音色
ナチュラル
意を決して、

和美は、アメリカへと活動を移した。

フランスで出会ったバンド仲間も、ついてきてくれた。

啓介のアメリカ留学時のミュージシャン仲間が、暖かく迎えてくれた。

そして、休む暇もなく、

早速ライブの予定が入った。

ニューヨーク。

有名なクラブで歌う。

きらびやかな照明が、アメリカを象徴していた。

真っ赤なドレスで、和美はステージに立つ。

映画の主題歌になったオリジナル曲。

ジャズ、ソウル。

そして、日本の民謡や童謡。

日本独特の音階を、だしたかった。

和美の天性の歌声と、

アメリカ人向けにアレンジしたとはいえ…西洋とは違う音階は、オリジナリティを醸し出した。

毅然としたクールな姿勢も評価され、

彼女は、日本人なのかという声も上がった。

どこでも大盛況だった。

一歩、会場をでると、

激しい中傷もあった。

ジャップ。

黄色いメス猿が、白人や黒人の猿真似をしている等。

コンサートが終わるたびに、ホテルの自分の部屋に戻ると、

和美は倒れるように、気絶するように寝た。

毎回、すべてを出し切っていた。



そして、ついに、グラミー賞当日になった。



「カズミ・コウノ!」

会場が、大拍手で湧き上がる。

ジャズボーカルを、アジアンが取ることなんて…奇跡。

いや道化だ。

アメリカ各地でおこる…有色人種への差別による不満を、和らげる為に、

今年は特例で、和美に与えられたのだ。

アメリカンドリームの体現として。

あなた達でも、夢が実現できると。

和美は、ステージに上がり、

グラミーの象徴を受け取ると、マイクに向かって話し出した。

「この度は、このような名誉ある賞を頂き、心から感謝しています。まずは、私を応援してくれたファンのみなさんに、感謝します。そして、私を支えてくれたバンドのみんな、レコード会社、フランスや日本にいる仲間に、感謝します。」

会場を拍手が包む。

「私を産んでくれた両親に感謝します。天国まで届くことを祈っています」
< 364 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop