黄昏に香る音色
「明日香あ!」

うるさいくらい何度も、里美は叫ぶから、

仕方なく…

声がする方に、行こうとして、明日香は、体を反転させる。

だけど、気持ちは気になって、顔だけが、少年の方を向いていた。

「あのお…あなたのお名前は…」

「名前…?」

少し驚いたような表情を浮かべた少年は…、

唇を噛み締め、戸惑いの表情に変わった。

風が再び、2人の間を強く吹き抜けた。

髪が舞い上がり、頭を明日香が押さえた時、

少年は呟くように、口を開いた。

明日香には、聞こえなかった。

「え…」

聞き返す明日香に、

少年は目をつぶり、少し考え込む。

そして、ゆっくりと目を開け、まっすぐに明日香だけを見て、

「裕也。ゆうでいいよ」

ゆうはそう言うと、

ゆっくりと、明日香から離れた。

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