黄昏に香る音色
恵子は、病院で死ぬことより、

KKで、最後まで過ごすことを望んだ。

例え、

病院にいたら、何日か命が延びたとしても。

医者いわく、

立ってるのも、奇跡だと…。

恵子は、痛みを感じなくなっていたのだ。

啓介は、恵子の気力にかけた。

彼女の夢だった…

アメリカでの成功を見せることで、命が長らぐことを。

死ぬ前に、夢を叶えてあげたかったのだ。

彼女の息子、速水啓介として。

阿部は、声を出して泣きながら、その場に崩れ落ちた。

「俺は…啓介とちがって、そばにいるべきだったんだ!それなのに、それなのに…格好つけたいばっかりに」

阿部は、床を叩いた。

「俺は、ダブルケイに入りたかった!姉さんといっしょにやりたかった。ベースを始めたのも…アメリカに留学したのも、姉さんといっしょに…やりたかっただけなんだ!」

激しく叩きつける。

「今、ここにいるのだって…最後に…姉さんに、俺がアメリカで活躍する姿を…見て貰いたかっただけなんだ!そばにいることより、てめえのことしか考えてなかった…最低野郎だ!」

誰が、阿部を責めることができようか…。

ここにいる誰もが、

そばにいなかったのだから…。

四人が泣いてる。

明日香は、啓介を抱きしめながら、

阿部を心配した。

手が真っ赤になっている。

今、明日香は泣けない。

「阿部さん!もうやめて下さい」

阿部は…明日香の声で、叩くのを止めた。

そして、

明日香の顔を見ると、

「そうか…明日香ちゃんは…知らなかったんだね」

阿部は立ち上がると、

おもむろに歩き出した。

自分の鞄をあさり、何かを取り出す。

手紙だった。



< 423 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop