黄昏に香る音色
傘をさしながら、正門で待つ里美。

次々に、帰っていく生徒達を、見送る里美の顔はどこか暗い。

「ごめん。お待たせ」

高橋が、ゆっくりと歩いてやって来た。

里美の顔が、笑顔になる。

「あたしも今、来たところだから」

笑顔の里美を、一度見ただけで…高橋は、周りを見回し、誰を探す。

「高橋くん?」

訝しげに、里美は高橋を見た。

高橋は、里美の表情なんて気にしない。

「あれ?香月くんは?」

高橋の言葉に、里美の表情が曇る。

「え?…明日香は、いないけど…。今日から、高橋くんと一緒に帰るから…」

里美の言葉に、今度は、高橋の表情が、変わる。

「いつものところか…」

高橋は振り返り、学校内を睨んだ。

「高橋くん?」

高橋は、拳を握り締めながらも、

作った笑顔を、里美に向けた。

「あっ、ごめん。いこうか」

2人は、歩きだした。

高橋はもう…校内を、振り返ることはなかったけど、

里美を、見ることもなかった。

ただ前方を、睨みながら、駅までの道を歩いた。

< 97 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop