あの加藤とあの課長
「彼氏か?」



ふっと煙を吐き出した私の耳に、不意に恵也の声が飛び込んできた。

隣のベランダを見ると、今日も晩酌らしい。



「うん。」



いつから聞いてたんだろうという疑問は放っておいて、私は煙草を口に含んだ。


寂しくなったのかな、煙草を吸いたいなんて。

こっちに来てから寂しいのかやたら口が寂しく感じて、煙草の本数が格段に増えてしまった。



「なんや、こっちに来るんか?」

「来週1泊2日だって。」

「ふーん…。」



面白くなさそうに呟いて、恵也はビールを煽った。

恵也は真っ直ぐ正面に目を向け、そのままどこか一点を眺めていた。



「なぁ、陽萌。」

「うん?」

「朝、あのまま…続いてたらどうなってたんやろって、言ったやん?」

「…うん。」



あのまま、続いてたら。

その答えはきっと一生見つからない。なぜなら、私たちはあの時終わってしまったから。


だから恵也の質問は愚問だ。



「俺はあの時、お前を…、陽萌を放ったらかしにしたこと、悪かったと思うてる。」



私は視線を恵也へと移動させた。

恵也は相変わらずどこか一点を眺めたまま、何を考えているのか分からない表情をしていた。



「…でも、陽萌を諦めたことはなかった。」

「…え?」

「あの頃から想いは変わっとらん。これっぽっちもや。」
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