あの加藤とあの課長

私の帰る場所

辞令が出てから約1ヶ月。
下半期に合わせて、異動することになった。



「よしっ、荷物は全部送り終えたな!」



腰に両手を当て、空っぽになった部屋を見つめる。

何度も味わったこの虚無感。
今は、どういうわけか悲しさを感じない。



「さてと…。」



鞄と1泊分の荷物が入ったキャリーに手をかけた。

私はこれから、東京に……源の元に、帰る。


玄関のドアを開けて外に出ると、廊下の柵に背中を預ける恵也がいた。



「…よっ。」



私に気が付くと、笑ってそう言った。



「…あの時とは、逆やな。」



柵から一歩前へと踏み出すと、俯きがちに笑って言った。

あの時…、上京する恵也を送り出したあの時。



「そうだね…。」



昔に思いを馳せる私に小さく笑ったあと、私の頭に手を置いた。



「もう、それもなしやったな。」

「…だったね。」



過去と決別して歩き出すと決めた私たち。

時間はかかるだろうけれど、きっと大丈夫だと、思うんだ。



「駅まで送るで。」

「ありがと。」



電車で行こうと思っていたけれど、正直車があると助かる。



「仲直りできてよかったな、生渕さんと。」

「ありがと。」

「もう、離れたらアカンで?」

「うん。」
< 390 / 474 >

この作品をシェア

pagetop