あの加藤とあの課長
「さすがに今回は、無理だと思ったな。」



そう呟きながら、いつものように私の腰に腕を回す源。

いつも通りだけど、ここ最近はこんなこともなくなっていたから。



「……今回は、私が動かなきゃって思った。……正直、賭けだったけどね。」

「俺も行き詰まってたから助かった。」



本気で、もう駄目かもしれないと思った。

だけど、何とか乗り越えられた。



「まさか源もヘッドハンティングの話受けてたなんてね。」

「……その事なんだが、少し心当たりがあってな…。」

「あ、本当? 実は私も。」



首だけで源を振り返ると、顔を見合わせて笑みを溢した。



「また助けられたみたいだね。」

「……そうだな。」



私の髪を耳にかけると、そのまま頬をスルリと撫でる。

そして、いつものように私に口づける。


久しぶりの感じに涙腺が緩んだ。

懐かしく、愛おしく。
この人の手を離さなくて良かった。


側にいることができて、本当に良かった。
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