哀しみの音色
 
樹の姿かたちは、蓮に似すぎていて
会いたい反面、もう絶対に会いたくないと思った。


樹を見れば、絶対にあたしは、蓮を思い出してしまうから……。



金曜日。
あたしはいつも、蓮を想って歌う。


蓮が生きていた時もいつも一緒に歌っていたから……。


でもあたしから奏でる歌は、あの時のような楽しい歌声ではない。

蓮を想って作った、悲しい悲しい歌。


そしてその日も、蓮を想って歌っていると誰かの気配。

視線を落としたその先にいたのは……


(あ……っと……)


もう二度と会いたくなかった、相沢樹だった。


会いたくないと思いながらも、その姿を見てしまうと、泣きたくなるほど嬉しくなる。


(……また、会ったね)


あたしは自然と笑顔を向けてしまっていた。
 
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