大人の純愛宣言
先輩と別れてテクテクと歩いて帰る。
5月の風は気持ち良くて、仕事で汗ばんだ体を癒してくれる。
こんな日はビールでも飲まなくちゃやってられない!

そう思いながら近所のスーパーに立ち寄る。

冷蔵庫の中を思い出しながら、アレコレと買い物カゴに放り込んだ。最後にビールをカゴにいれ、レジへと向かった。夕方のスーパーは込んでいる。子連れのママさんも大変そうだ。でも幸せそうだ。きっと旦那様と子供のためにおいしい料理を作るのだろう。私は旦那もいないし、子供もいないし。先輩には、ああ言ったけれど、一生一人なのだろうかと不安にもなる。


「幸せそう…」


買い物したものをつめ終ると、ついウッカリ独り言を言ってしまった。
そういえば独り言が増えた。こういう所がアイツが言っていた オバサン ってやつなのかな?


「澤井さん!独り言多いっすね!」とニヤニヤと笑っている。

独り言を聞かれただろうか、そこには嫌いな相沢が立っていた。

よく見ると相沢は長身で、通った鼻筋に二重瞼、吸い込まれそうになる瞳。
そら、後輩たちも浮き足立つなぁと納得してしまった。

「あれ、相沢君、元気?」

あー動揺して変なこと聞いちゃったぁ~と焦りつつも、スーパーの袋を二つ持ち上げた。すると、相沢が 無言のままに荷物を持ってくれた。

「え、いいよ、大丈夫。自分で持てるし…」
そう言うと、相沢はどうってことないって顔で自分の荷物と私の荷物を持ち…私の家はどちらなのかと尋ねてきた。
右を指差すと、方角同じなんすねと私の歩調に合わせ、歩き始めた。

道中患者さんの話で盛り上がり、私のマンションの前の公園でベンチに腰掛けた。二人で私が買ったビールを飲むことにした。

相沢って案外イイヤツなのかもしれないなぁ、話をしているとそんな思いがして

「相沢君って案外、仕事熱心なんだね!見た目からは想像つかない…アハハ」

二人で笑いあっていると、


真面目な顔で相沢が聞いてきた。


「澤井リナ、俺のこと覚えてますか?」

と優しく、微笑んできた。




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