恋人たちのパンドラ【完】

「タツキなら園に戻った」

今まで硬く閉ざされていた双眸がぱちっと開いた。そしてゆっくりと身体を起こした。

急に動き出した男の姿に驚いた悠里は

「タツキ君じゃないよね？」

と間抜けな質問で返す。

「違う。タツキがこんなでかいわけないだろ」

そういいながら端正な顔立ちを一気に崩して大きな口を開けて起こした身体を二つに折り曲げおなかを抱えて笑った。

（そこまで笑うことないじゃない）

悠里は目の前でげらげらと笑う男をふくれっ面で睨みつけた。

「ごめんごめん。ユーリ。俺はタツキじゃなくて壮介。碓井　壮介（うすい　そうすけ）」

そう自己紹介をしながら悠里の膨れた頬を人差し指でつついた。

悠里は初対面の男性から触れられたのに少し驚いたが、そのすんだまなざしに吸い込まれるように魅了された。

「ど、どうして名前を？」

「タツキが言ってたよ。ユーリは俺のお嫁さんだって」