かえるのおじさま
さらに力を込めた腕に応えて、彼女が首に腕を回してくるから、もう我慢できない。

「美也子。俺を一人にしないでくれ」

ギャロは大きな唇の先で、小さく華奢な美也子の唇を吸った。
強く吸った。
ただ無我夢中で吸った。

美也子は少しだけ唇を離してささやく。

「ギャロは一人じゃないよ。座長さんもいるし、旅座のみんなもいる。定食屋さんのおばさんだっているじゃない」

雷は遠ざかったが、雨はまだ強い。

降り続ける水玉はそちこちで跳ね返り、ざあざあと世界中の音を掻き消そうとするから……ギャロは美也子の耳元を舐めるほどに口を寄せ、囁く。

「今は、お前がいればいい」

旅座の連中は大事な仲間だ。

座長は姉のように自分を育ててくれたかけがえの無い存在であるし、定食屋のおばさんだって、この村に立ち寄るたびに顔を見に立ち寄るほど慕っている。

それでも、こんな気持ちにはなった事が無い。

離れたくない、放したくない。絶対唯一無二の存在。

「お前がいればいいんだ」

ギャロは美也子の膝を割って片足を割り込ませ、その体を大木に押し付けた。
< 101 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop