かえるのおじさま
ガタゴトと揺れる旅馬車の中、彼は俯いて小さな細工など削っているが、その手元は止まりがちである。

美也子は努めて明るい話題を探した。

「ねえ、もうちょっと行くと温泉があるんだって? せっかくだから、ゆっくりとお湯につかりたいわねぇ」

「なんなら、一緒に入るか?」

ちょっとおどけた口調。
だが、妻を引き寄せる手付きは、強い。

「……すまんな。気を使わせて」

だから、美也子も真面目に答える。

「ギャロリエスと別れたのが、そんなに寂しかった?」

「ちょっとな。それでも、あいつは他人じゃないんだ。来年も、再来年も、その先もずっと、祭りのたびに会いに行くさ」

「じゃあ、何をそんなに落ち込んでいるの?」

「たいしたことじゃないんだ」

ギャロは、柔らかい髪に頬を擦り付る。

「美也子は、お袋さんに会いたいか?」

ふっと湧きあがる郷愁。美也子の脳裏に、一人きりで食卓に座っている母が思い浮かんだ。

他意はない。
とっさに思い浮かんだだけの、美也子の心象風景に過ぎない。
だが、あまりに寂しい光景だ。
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