かえるのおじさま
食卓には二人分の茶碗が並んでいた。

おかずは美也子の好きなコロッケだ。
これは、いつもいくスーパーではなく、もう一軒遠いスーパーまで足を伸ばして買いに行ったものだ。
美也子が喜ぶからと、コロッケの時はいつも、そう。

だが、食卓についているのは母一人。
少し背中を丸め、もくもくと飯を食んでいる。

ただ、それだけの、ほんの一こまが思い浮かんだだけだ。

「会いたい」

それが美也子の答えだった。
そして、ギャロは喉の中で「そうか」と唸っただけであった。


それは少しの引っ掛かりを二人の間に残したものの、取り立てて心に残るような出来事ではなかった。
何しろ、日常というのは忙しいものなのだ。

旅馬車は、次の町に向けてごとごとと単調に進むだけだが、その中で生活は営まれているのである。

夜は安全と、馬を休ませるために馬車を止める。
だから、十分な睡眠がとれるのだ。

そして、日の出とともに起きる。

起きて早々、朝食の準備が始められる。
これは女衆で当番が決まっているのだが、移動中に食べる昼食までまとめて用意するため、朝っぱらから結構な重労働だ。

朝食の当番に外れた者は、その間に水場から一日に使う水を汲んで馬車に積む。
川の近くであれば洗濯もしなくてはならないし、砂地であれば馬車の清掃など、日々の仕事はいかほどもあるのだ。
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