かえるのおじさま
「ギャロ……」

驚きに上げられたその瞳は案の定、涙に濡れている。

「そんな、泣くほど嫌なら、俺に言えば良いだろう、ばかっ!」

吸盤つきの指がドレスの前を手早く合わせ、そのまま美也子を抱き上げた。

「帰るぞ」

「だって、舞台……お客さんが」

「ああ?」

不機嫌そうにぐりぐりと目玉を回し、ギャロは場内を揺るがす大ブーイングに抗して恫喝する。

「うるせえ! これは俺の女房だ! お前らなんかに見せてたまるか!」

後はもう無我夢中で、男たちが喚く不満の声すら掻き分けてギャロは走る。

入り口をひょいと覗き込んだ両生類少年とぶつかりそうになったが、それすら押しのけるようにして、ギャロは走った。

今はただ、この腕の中の女をどの男の視線も届かぬところへ連れ去ってしまいたいと、ただそれだけを思いながら……
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