かえるのおじさま
そうと知ってはいたが、ギャロは白く細い指をそっと引き寄せる。

「この方が、それっぽく見えるだろ」

美也子は一瞬息を呑む。
だがすぐに、指先が水かきの間に絡まった。

「うん……そうね」

近づいた肩先の距離を、参列者たちは見逃してはくれない。
わっと歓声が上がる。

「誓いの『ちゅう』とかしちゃえよ!」

ギャロは繋いでいないほうの手を振った。

「や、いや、そういうのは……ここにはガキどもも居るし」

「何いってんだい、別にディープなのかませって言っているわけじゃないよ」

「祝言にちゅうはつきものだろ!」

美也子が不安そうな顔でギャロを見上げる。

「ギャロ……」

「解かってる。連中は俺が黙らせるから、心配するな」

「そうじゃなくって……いいよ、キスぐらい」

「はえあっ?」

花婿は実に無様な叫びをあげ、それから、ふるりと大きく胴振るった。

「いや、お前がいいって言うなら、俺にも異存は無い。だけど、本当にいいのか? これは嘘の祝言なんだぞ」

「だからなおさら、誓いのキスぐらいしたほうが、それっぽく見えるでしょ?」

その言葉がギャロの中の何かに火をつけた。
ぐいっと美也子を引き寄せる。

「皆を納得させるためだ。本当に、それだけだからな」

大きな大きな蛙口が、美也子の顔に近づいた。
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