かえるのおじさま
正直なところ、美也子は元の世界に帰ることなどすっかり諦めているのだ。
ギャロが心を砕いてくれているのを知っているから、迂闊に口にしたりはしないが。

彼が言っている魔道師という輩がどれほどのものなのか、そもそもが『魔道』に異界との境を越えるほどの力があるものなのか、それすらも怪しい。

何しろ……

「よし! 一発目、開けるぜ!」

景気のいい掛け声と共に、樽の栓が抜かれた。
どん!と大仰な音がして火の玉が樽を打ち抜き、天へと上る。

「これはピエスの街の魔道師が作ったって言う、最上級のモンだ」

ひゅるひゅると切ない音を立てて夜空に這い登った火玉は、ぱあっと一声を上げて八方に散った。
五色の火花がちかちかと瞬きながら降る。

「きれい……」

「全くだ。魔道ってのは大したモンだよな」

「そう……ね」

美也子の返事は歯切れが悪い。
彼女が目にする魔道とは、この程度なのだ。

この花火のように樽に詰めた発火性の魔法を、空気と混ぜ合わせて打ち上げるとか、煮炊きの火を着ける小さな発火具とか、そういった類のものばかりである。
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