可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 それも、まだ言えない。

 言うと、俺の気持ちがわかってしまうから。

 傷ついて青ざめた顔をしたまま、両手を握りしめている。

 本当は打ち明けてしまいたい。こんなに傷つけたくはない。

 ……それでも、俺は妥協したくなかった

 俺が後ろめたい気持ちを抱えたまま、彼女を受け入れたとしたら、優しい安西は、自分も後ろめたく感じるだろう。

「いつ、ここを離れるんだ?」

「4月4日の予定です」

「頼むから。何も言わないでそのまま家に帰りなさい。
 お前は俺にとって、一番手のかかる、可愛い教え子だよ。その関係を壊したくない」

 安西は黙って俺の顔を見つめている。

 大きな眼に、涙が溜まりはじめた。

 涙をこぼさないように、上を向いてまばたきしている。

 それでも無理に笑顔を作って、明るく別れようとしている。

「今まで、お世話になりました。私、わたし……」

 溜まっていた涙が、頬に伝わっていた。

 堪えきれなくなった雫が、次々と溢れ出す。

「泣くなよ」

「……無理っ」

 立ち上がり、頭を撫でた。

 今の俺には、これしかできない。

『卒業式』は、こうして終わった。
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