花は花に。鳥は鳥に。
「課長の奥さんて、どんな方なんですか?」

 これくらいは聞いてもセーフだろう。

 別に不倫願望があってライバルを蹴落としたいから聞いてるってわけじゃない。

 純粋に興味だ。

「俺以上に仕事大好き人間かなぁ。遣り甲斐があって、充実してるらしい。

 忙しいとか言ってる割に、ぜんぜん苦しそうじゃないからな。羨ましいよ。」

 それって半分惚気ですよ、課長。


「なんかやっぱり新婚さんなんじゃないですかー。」

「嫁さんとは、七年越しで付き合った延長で結婚したからな、別に新鮮味はないさ。」

 逆に熟年に近かったか。

「んー。七年たす三年で十年目ですか、それって倦怠期ですかね?」

 課長が声をあげて笑った。


 不満も不安もある。

 もしかしたら、もっとイイ人と出会えるかも知れないなんて虫のいい期待もある。

 懐かしそうに目を細めて、課長は思い出しながらで話してくれた。

「大学の卒業間近で出会ったんだ。就活のセミナーで隣に座った。

 偶然が三度も四度も続けば、嫌でも意識するじゃないか。

 で、実は同じ大学だったと知った。

 四年通っても、会わない人とは会わず仕舞いなんだなぁ。」

 さっきまで不倫の入り口で迷っていた男とは思えない呑気な口調で課長はトボケてみせた。


 学部が違えば、ヘタすれば在学中ずーっと出会わないままの生徒というのもありますね。

 だけどこのヌリカベ男なら目立つだろう。

 もしかしたら偶然なんかじゃなかったかも知れないなと思った。

 そしたら、奥さんの事がちょっとだけ可愛いと思えた。


 恋人が欲しいと思うのはどうして?

 だって、一人じゃ寂しいじゃない。

 一人じゃ不安だから、誰か一緒に居てくれる人が欲しいんだ。

 家族だけじゃ足りないから、友達も欲しい、カレシも欲しい。


 だけど、彼氏彼女っていう関係は不安じゃないですか。

 だから、結婚するんだ。

 少しでもこの不安を解消したいから。


 不安の正体はなに?

 それは、別れだから、無くなる事はない。

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