花は花に。鳥は鳥に。
 何を期待してるんですか、課長。

 わたしの方から誘ってきたんだっていう、客観的証拠ですか?

 わたしのカレシはそういう風に女の方から言い寄ってくる状況を作り上げるのが、とてもとても巧いのですよ。

 だから、アナタの思惑などお見通しなのですが。

 笑い出したくなった。


 祐介。あんた、わたしに聞かせる言い訳が欲しかったんだよね。

 課長はわたしのせいにして、家庭を守りたいと思っている。

 プラチナのリングを外す覚悟はまだ出来ていないから。

 そしてわたしも、課長の方から誘ってくれないと困ると思っているんだ。


「課長。例えばですよ?

 例えば、目の前に『最後の恋』とかいうヤツが転がってきたとしたら、どうします?」

 課長は「?」という顔をして黙っていた。抽象的すぎたか。

「今まで自分が、これが最高だと思っていたものよりも、一段良いものなんです。」

 これでもまだ課長には通じていない。ええい、はっきり言ってやる。

「つまりですね。アナタの奥さんより確実に、アナタを幸せにしてくれそうな女が現れたわけですよ。」

 直接視線を合わせなくても、視界の隅で、課長が目をほんの少し見開いたのが解かった。

 ダメ押しでどんどん突っ込んでってやる。返答に困るように。


 ちょっと意地悪な気分になっていて、ちょっと楽しかった。

「課長の思い描いた家庭を、その人だったら、叶えてくれそうなのです。

 ……だったら、課長は今の奥さんと離婚します?」

 わたしの問いかけに、課長は聞えよがしなため息で返事をした。

 わたし自身も、答えは解かっていた。


「それは、例えば雑種のペットを飼っているところへ、血統書付きをあげましょうと言われるようなもんだな。」

 家で飼えるのは一匹だけ。

「長年共に過ごしたペットを、雑種だというだけで捨てられる飼い主なんてのは少ないと思うぞ。」

 ましてや、人間ともなれば。


 あえてペットの話にして核心から逸らして、課長は誤魔化した。

 イヌやネコと人間は違う。

 イヌやネコだとやらない事を、相手が人間になると割と平気でやってしまうのが人間だ。

 ペットは、主人を傷付けない。

 飼い主の人生を左右したりはしないから。

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