花は花に。鳥は鳥に。
「ねぇ、何処行こうか?」

 努めて明るく振る舞った。

 他人のカレシなんか、もう視界に入れたりしない。


 なにせ休日は何処もかしこも混んでいるから、紗枝はあまり乗り気じゃなかった。

「えっと、どこか人が少なそうな美術館とか……。」

「絵なんて興味ないくせに、なに言ってんのよっ。」

 どこまでも後ろ向きな女、紗枝。

 漫画は好きでも、絵画には興味がないことをわたしは知っていた。

「だって、混んでるじゃん、並ぶじゃん、立ちっぱじゃん。」

「解かったわ、紗枝はそんなにディズニーランドへ行きたかったんだね。」

 わたしは猫なで声で嫌味を返す。

「行きたくないよ!」

 本気で嫌そうな紗枝の声にみんなが笑った。

 なんとなく面白くなっちゃって、この日の行き先は夢の国に決まった。


 祐介の存在がずっと引っ掛かっている。

 意識しないように努めれば務めるほどに、どんどん気になっていく。

 バカね、わたし。

 彼は、紗枝のカレシだ。

 こんなのは、危険だ。

 紗枝に申し訳なくて、わたしは必死になって彼への興味を消した。


 人を愛するって、どういう気持ち?

 好きになるって、どんな感じ?

 付き合ってと言われて付き合い始めたカレシに抱く想いは、これは本当に「愛」なの?

 なにが愛なのかなんて解からないから、たぶん好きなんだと思っている。

 嫌いではないから、じゃあ、好きなんだろう。

 そんな感じで。


 親友のカレシが気になって仕方ない。

 電車の窓から見える高層ビルの谷間に、酔いそうになる。

 恋なんかじゃない。

 エゴイズムだ、紗枝のカレシだから欲しいと思っている。

 他の女を押し退けてナンパされたから満足してる。

 求められるって、気持ちいいもの。

 それが他人のモノならば、なおさら。

 けど、そんなのは御免よ。

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