魔力のない世界
「瑞季さん…」
この声は、さっき聞いた声だ。
「ここから出ましょう、さあ、起きてください」
声は同じ、でも、何かが違うのが彼女にはわかった。
自分の寝ているベッドの横から感じる視線と、温もり。
そう、リアリティだ。
まるで、すぐとなりで声をかけられているような感覚だ。
彼女はゆっくりと目を開けた。
そこには、整った顔の男性が彼女の顔を覗き込んでいた。
「…やっと起きた…」
男性は一瞬顔を緩めたが、すぐに戻し、彼女に率直に質問をした。
「…琴乃 瑞季さん。あなたは外の世界に行きたいですか?」
迷うことはなかった。
彼女はゆっくりと確実に頷いた。