短編集
夕暮れ
 外の夕焼けが余りにも綺麗で、私はベランダに出た。


 山へと沈みゆく夕陽は白く霞のかかった空に橙の光を投げ掛け、暖かな色で地球を包んでいく。

 街も、山も、そして海も。太陽の光は、全ての命を平等に抱き込む。

 夕日は徐々に沈んでいく。沈めば沈む程、より広く、より深く、暖かな色が地球を包む。

 不思議な事に、そうやって光が地上を抱き込めば抱き込む程、空の青さは増していく。青く、蒼く、どこまでも遠くへ。

 その青色の先が見たくて身を乗り出すけれど、空はその先を見せてはくれない。

 そうしている間にも、夕陽はゆっくりと沈んでいく。音も無く、兆しも無く。いつまでもそこにあるような顔をしながら。

 そんな夕陽は、大地を橙で抱きながら、美しいグラデーションを空へと映し出す。赤からオレンジ、そして青へ。常ではあり得ないその色の変調は、それでもなんら違和感を抱かせること無く、見る人の心を奪う。

 鮮やかなグラデーションに見惚れながらも、やはり気になるのは上空にのみ広がる蒼。届かない宇宙へと続く蒼は、だからこそ私の目を奪うのだろうか。

 空色、という色がある。けれど、空の色は一瞬たりとも、そして2度と同じ色にはならない。だったら空色とは、一体どんな色を指すのだろうか。

 答えを求めるように無限に広がる世界へと想いを馳せて青い空を見つめ続ける事は、けれど出来ない。次第に空が白っぽく見えるようになり、ちかちかと光の虫が目の前を飛び始める。蒼が認識出来なくなるのは、まるでこれ以上は駄目だと空が告げているかのよう。

 それに逆らうことは出来ない。今日はこれまでかと、私は身を引いた。


 久々に、夕焼けに心奪われてしまった。かつて学校からの帰り道、いつも目を奪われていたそれ。いつしか遠ざかっていたのは、それだけ心が曇っていたのだろうか。それとも、沢山のものを目にする事ばかりに気を取られて、大切なものを見ようとするのを忘れてしまっていたのだろうか。

 だから私は、今日のこの空を文章に残す。かつて毎日のように空に心奪われたあの頃には持たなかった記録の——記憶の方法を持つ事を、少し誇らしく思う。

 そうして私は、この文章を書き始めた。一瞬一瞬変化していく、1度として同じ色を写すことの無い空に、時折目を奪われながら。
< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop