社内恋愛のススメ



「実和、好きだよ。」


夢の中だからこそ、聞ける言葉。


これが現実だったならば、そう簡単には言ってくれないだろうから。

もう2度と、愛を囁いてはくれないから。



「い、や………だよ………。」


さよならなんて、したくない。

嫌だ。

嫌だよ。


上条さんと別れるなんて、考えられない。

そんなこと、考えたくない。



ずっと憧れていたんだ。

その隣にいられることを願っていたのだ。


やっと届いた想い。


この恋を手放したくない。



力の限り、彼の体を抱き締める。


離れていかない様に。

その手を放さない様に。


だけど、私の手は雲を掴むみたいにすり抜けていく。

離れていく。


幸せな夢は、そこで終わった。





「………。」


なんて、後味の悪い夢。

夢から覚めた私を襲ったのは、鋭い痛み。



ズキズキと、頭が痛む。

大した脳ミソなんて入っていないけれど、頭が割れてしまいそうだ。


悪化していく体調を身をもって感じながら、耳を澄ます。

瞼は重たくて、開けられなかった。



サァーー……


遥か遠くに聞こえる雨音。

遠くで聞こえるその音は、何重もの壁を経ている様に小さくしか聞こえない。



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