社内恋愛のススメ



真っ白な世界。

また何も見えなくて、不安になる。


ただ、あの人の声だけ。

それだけしかない世界。



もっと呼んで。

私の名前を呼んで。


私だけを。

私の名前だけを呼んで。



急に現れた、その人。

夢の中までスーツで現れるなんて、上条さんらしいね。


眼鏡を直す仕草まで、現実と同じ。

滅多に見れない笑顔が、夢の中でだけ咲く。



「こっちにおいで、実和。」


そう言って、私の手を引く。

スッと体が寄せられて、重なり合う。


抱き締められても、感覚はなかった。



これは、夢。

所詮は、夢の中だから。



「上条さん………。」


ねぇ、上条さん。


どうして、婚約なんてしたの?

あの人は、誰?



あなたは、文香さんを選んだの?


私は。

私は、どうすればいい?



現実と同じなのは、私も一緒だ。


聞きたいことは、何1つ聞けない。

何も聞けなくなる。



私って、こんな人間だったのだろうか。


こんなになよなよしてた?

こんなに弱虫だった?



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