社内恋愛のススメ



(長友くん!)


彼の名前を心の中で叫びながら、走る。


普段は滅多に走らないせいで、思い通りに動かない体。

今だけは、そんな体が恨めしい。



シャラン、シャラン。


スウェットのズボンの中で鳴る、鈴の音。

マンションの鍵に取り付けた鈴が、ポケットの中で音を奏でる。



マンションの鍵と携帯電話が擦れて、ぶつかり合う音。

そして、鈴の音。


ポケットの中で奏でられる音を聞きつつ、駅前のコンビニに急ぐ。


通り過ぎる人は、皆、私のことをジロジロと不躾に見ていた。



「………!」


ジロジロ見ないで。

これでも、こっちは急いでいるんだから。



家では女を捨てているけれど、外を歩く時はそれなりにきちんとした身なりをしている私。


もう、社会人6年目。

一応、常識くらいは弁えている。


手抜きだけど、見れる程度の装いはしているつもり。



いつもなら。

だけど、今は、非常事態。


格好なんか、気にしている場合じゃない。

それよりも、今は長友くんの所に行きたいのだ。


早く、早く。

一刻でも早く、長友くんのいる場所へ辿り着きたい。



長友くんの様子が気になる。

長友くんに何かがあったら、どうしよう………。


私、大切な友達を失いたくない。

私、信頼出来る同僚を失いたくない。



いつもなら、すぐに着くはずのコンビニ。

その道のりが、今日だけはやけに長く感じる。


ようやくコンビニが見えてきた、その時ーー……

駐車場の端でうなだれて座る、長友くんの姿を見つけた。



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