社内恋愛のススメ



(嫌です、なんて言えないよね………。)


上条さん相手に、そんなことを言えない。


しかも、仕事の話だと言われているのだ。

上司である、上条主任に。



逃げたい。

断りたい。


そうは思うけど、逃げる理由も断る理由も見つからない。



「はい、分かりました………。」


仕方なく、そう答える。


ゆっくりと、上条さんに近付く。

近付くほどに、重くなる足。

気分までも、重く重く沈んでいく。



「さぁ、早く。」


急かす上条さんに続いて、私も小さな会議室へと足を踏み入れる。


私と上条さんを止める人は、もちろん誰1人としていなかった。



ガチャン。


残酷に、ドアが私と上条さんを閉じ込める。


ゆっくりと閉まるドア。

スローモーションみたいに、ドアが閉まる様子が私の目に映った。








鮮やかなオレンジに染まる室内。

狭い部屋には、私と上条さんの2人きり。


オレンジと薄紫が、小さな部屋の中で混じり合う。



夕暮れのオレンジと、夜の闇の色。

2つの色が、狭い空間の中で一体化していく。


あと1時間もすれば、日が暮れる。

この部屋も、この世界も、闇に閉ざされてしまうに違いない。



上条さんが、1番奥の椅子に腰かける。


小さな会議室に置かれた、細長いテーブル。

テーブルの端。

上条さんから離れた席を選んで、座ろうとする私。


上条さんが、そんな私を止めた。



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