社内恋愛のススメ



しかし、狭い部屋で、逃げられる場所なんてあるはずもない。

ジリジリと、部屋の隅に追い詰められていく。


また、同じ。

距離が縮まって、なくなっていく。


月明かりに照らされる、長友くんの顔が見えた。



「………!」


トンッと、わずかな音ともに、背中には固い感触。

気が付けば、壁際にまで追い詰められている。


長友くんが、私を捕まえる。



壁との間に私の体を挟む様にして、長友くんに捕まえられてしまう。


私の顔の真横に置かれた、長友くんの両手。

逃げ場は、既にない。



「返事、聞かせて………?」


長友くんが私の肩に、顔を埋めて言う。

長友くんの吐息が、肩にかかる。


それだけで、過敏に反応してしまう。


一瞬だけ見えたその顔は、切なく歪んでいた。




大好きな人。

恋なんてもういいやって思っていたのに、それでも恋に落ちてしまった人。


長友くんにそんな顔をさせているのは、私。

私なんだ。



長友くんは、今までどんな気持ちで私を見つめてきたのだろうか。

上条さんの隣にいた私を。


つらくないはずがない。



自分の想う人が、別の人の隣に立っているのだ。


上条さんとの恋に破れて、落ち込んでいた私。

上条さんの隣に立つ文香さんに、どうしようもなく敗北感を味わっていた私。


そんな私と同じ気持ちを、長友くんも抱いていたのだ。

私のすぐ隣で。



私は何度、長友くんにこんな表情をさせてきたのだろう。



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