社内恋愛のススメ



長友くんの顔は、私のすぐ傍。


鼻と鼻が、わずかに触れ合う。

ほんの少しでも動いてしまえば、お互いの唇までもくっ付いてしまいそう。





ドクン。


痛い。

痛いよ。


長友くんの部屋に押し込まれたから、痛い訳じゃない。

これは、内から発せられる痛み。


自分の心臓がギュッと、体までも締め上げていく。



ドクン、ドクン。


壊れる。

こんなに速く心臓が動いていたら、頭の中までおかしくなってしまいそう。


長友くんの存在を意識して、心臓がいつもよりも倍速く動いて。



触れ合った体から、伝わってしまう。

気付かれてしまう。


こんな状況に陥っているのが、どうしても未だに信じられない。



入社以来、ずっと隣で仕事をしてきた長友くんが、こんなにも近くにいる。


長友くんを、男として見ている自分がいる。



長友くんの目が、真っ直ぐ私を捉える。

熱く熱く、愛おしそうに。


私を女として見ている、長友くん。



昨日までの目とは違う。


同僚としてじゃない。

友達としてじゃない。


長友くんの目は、そのことをよく物語っている。



身近にいたからこそ、それが信じられなくて。

恥ずかしくて。


年甲斐もなく、抵抗してしまうんだ。



「い、いや………ちょっと………長友くん、落ち着いてみようよ。ね?」


誰よりも余裕がないのは、私なのに。

長友くんよりも、落ち着いてないクセに。


言い逃げする様にそう言って、私は玄関から素早く部屋の中へと避難する。



履いていたパンプスは、玄関に脱ぎ捨てた。

突き飛ばして、長友くんの腕の中から脱走する私。


真っ暗な部屋の中。

カーテンから漏れるのは、月明かり。



薄暗い部屋の中で、逃げ惑う。



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