社内恋愛のススメ



1枚、また1枚。

コートもワンピースも、身に付けていた下着も全て床に落とす。


脱ぎ終えた私の体は、生まれたままの姿。



その体に残るのは、あの人が付けていった跡。

虚しいだけの赤い跡。


至る所に残る赤い跡を、震える指でなぞる。



胸の辺りに集中的に付けられた、キスマーク。

赤い痕跡。


目を閉じれば、上条さんの歪んだ表情が蘇る。



上条さんと繋がってしまった体。


すぐに気持ち良くなるって言われたけど、そんなのは上条さんの嘘だった。


嘘つき。

上条さんの嘘つき。



全然気持ち良くなんかない。


繋がった瞬間に感じたのは、快感ではなかった。

深い深い、絶望。

もう這い上がれない。


地獄の底にでも突き落とされた様な、そんな感覚だった。




汚い。

汚いよ。


上条さんも、私も。

上条さんを押し退ける力さえない、この体も、何もかもが恨めしい。



私は、長友くんのことを裏切っている。

この体は汚れてしまった。


やっと見つけたのに。



私だけを見ていてくれる人。

私だけの大切な人。


未来に続く恋。

その恋の相手である長友くんを、私は裏切ってしまったのだ。



ゴシゴシと、強く体を擦る。

泡の付いたスポンジで、隅々まで洗っていく。


分かってるんだ。

こんなことをしても、意味はないって。


大した意味はないのだと、頭では理解しているんだ。



でも、何かをせずにはいられなかった。

動かずにはいられなかった。


体に残る跡を、あの人が刻んだ傷を、少しでも消したかったのだ。



「………っ、どうして………よ………。」


洗っても洗っても、どんなに強く擦っても消えない。

消えてくれない。


上条さんの残した跡は、消えてくれないんだ。



長友くんと別れた、控え室前の廊下。


あそこに立っていた時の私には、もう戻れない。

戻りたくても、戻れない。



体中が真っ赤になるほど、何度も何度も繰り返し擦った。



「う、うう………っ、あああぁぁ………っ、ひっ………。」


嗚咽が、シャワーの音に掻き消されていく。

消された嗚咽は、私の耳にまでは届かない。


それが、ちょうど良かった。



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