社内恋愛のススメ



だって、開けてしまったら、この顔を見られてしまう。


青い痣が残る顔。

上条さんに殴られた時に出来たこの痣は、隠したくても隠し通せない。


素顔なら、尚更そうだ。



上条さんに付けられた、たくさんのキスマーク。

昨日の名残を、長友くんに見られてしまうかもしれない。


服を捲られてしまったら、おしまい。



そうしたら、どう言うの?

言い訳なんてない。


もうどうにも、言い逃れなんて出来やしない。



私はずるいから。

最低な女だから。


少しでも、長くいたい。

長友くんの傍にいたい。


ちょっとでも長く、長友くんの隣にいたいのだ。



長友くんを裏切った私には、終わりが近付いてる。


長友くんと過ごす時間には、限りがあるから。



「ごめん、帰って………。」

「は?」


追い返されるなんて、思ってもいなかったのだろう。

長友くんが、素っ頓狂な声を上げる。


長友くんが何かを言う前に、私は自らの言葉で長友くんの声を遮った。



「ごめん、今日だけは帰って!………お願い。」


最後の方は、消え入りそうなほどに小さな声で。

もしかしたら、長友くんには聞こえていなかったかもしれない。



長友くんの返事を待たずに、玄関を去る。


長友くんを置き去りにして、私は部屋の奥へと消える。







ごめんね、長友くん。

ごめんなさい。


今はまだ、言えない。

お別れを、別れの言葉を口に出来ない私を許して。




逃げだって、分かってる。

ずるいのは、承知の上。


でも、今だけはこのままで。


長友くんの彼女のままでいさせて下さい。



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