社内恋愛のススメ



「し、失礼します!私、待ってる人が………。」


逃げたいのに。

上条さんの魔の手から逃れたいのに、出来ない。


記憶の中の私の目から、涙が零れ落ちる。



「どこに行く気だ。」

「そ、それは………。」

「僕が、君のことを逃がすと思っているのかい?………実和。」


離して。

近付かないで。


思い出すだけで、恐怖に支配されていく。



縛られた両手。

脱がされた服。


埋められない、力の差。



「実和。やっと、君と2人きりになれた………。」


2人きりになんて、なりたくないよ。


そんな目で、私を見ないで。

私に触れないで。



「実和、好きだ。君のことが好きなんだ。」


私は好きじゃない。

もうあなたのことを、愛していない。



「や、止めて!触らないで!!」

「僕には、君だけなんだ。君だけしか、いらないんだ………。」

「私は、私は………あなたをもう愛してなんかいない!」

「実和、君のことを愛してるんだ。」


汚されていく。

私の体が汚れていく。



忘れたい。

忘れてしまいたいのに、どうして忘れさせてくれないのだろう。


目を閉じる度に、地獄に落ちていく。





本当はね、1週間だけのつもりだった。

会社を有給休暇を使って休むのは、もっと短い間で済ませるつもりだった。


殴られた青い痣は、1週間くらいでようやく誤魔化せるくらいには落ち着いていたんだ。

ファンデーションでバレない程度には、青さが消えてくれていた。



有給休暇を延ばした理由は、別にある。


勇気がなかった。

会社に行く勇気が出ないから、有給休暇を延ばしてまで休んでしまったのだ。



会社に行きたくない。


会社に行くのが嫌だと、本気で思った。



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