社内恋愛のススメ



上条さんに会いたくない。

目を合わせることすら、怖いのだ。


何をされるか、分からない。

そんな状態で仕事をするなんて、私には無理だ。



そして、それ以上に、長友くんの顔が見れない。

あんなことがあったのに、平然と長友くんの前になんて出て来れない。


長友くんに、どんな顔をして話しかければいいのだろうか。



私は、自信がなかったんだ。


長友くんの目を、真っ直ぐに見る自信が。

長友くんの視線に耐えられる自信がないーー……



おかしいよね。

矛盾してる。


彼女でありたいと願いながら、顔を合わせるのが嫌だと思ってる。

彼氏の顔を見ることが怖いって、そう思ってる。



(私、何がしたいんだろう………。)


ずっと考えてた。


逃げて、逃げて。

全てから逃げてばかりで、私は一体、何がしたいのだろう。



(私が選ぶべき道は、きっと………。)


分かってるよ。

分かってる。


ずっとこのままでなんて、いられない。



こんな状態のまま、長友くんの彼女でいることも。

上条さんに怯えたまま、あの会社で働き続けることも、私には出来ない。


だから、決めた。

この2週間、考えて決めたのだ。




大学を卒業して以来、ずっと働き続けた会社。

思い入れのあるあの会社を、辞めるって。


黙ったままではいられない。

裏切ったのは、私なのだ。


だから、長友くんにも全てを伝える。



長い時間を費やして、考え抜いて、そう決めたんだ。








久しぶりに袖を通したスーツは、何だか知らない人の物みたいだった。


濃いグレーのスーツは、クリーニングから戻ってきたばかり。

クリーニング店のロゴが入ったビニールを破って、スーツを取り出す。


スーツの中には、真っ白なシャツ。



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