社内恋愛のススメ



他の女はメイクを直したり、別の新入社員と仲良くなろうと必死に話しかけたりしている。

それなのに、斜め右に座るこの女だけは違うんだ。


何をするでもなく、ぼんやりと前を見ているだけの女。


ガチガチに固まっている、という感じもしない。



明るい栗色の髪は、ショートカット。

人工的な色合いではないから、きっと地毛があの色なのだろう。


髪の長い女子社員が多いせいか、彼女の髪の短さがやけに目立つ。



ボーイッシュな彼女。

俺の座る位置からでは、顔までは見えない。


普段から、きっとこんな感じなのだろう。



ミニスカートのスーツではなく、パンツスーツ。

他の女みたいに、女を武器にしていない様に思えて。


愛想を振りまいて。

媚びて。


周りの男に好かれようだなんて、考えもしなそう。



しゃべったこともないクセに、そんなことを勝手に決め付けてる俺。


パンツスーツに身を包んだ彼女が取った行動は、この場には相応しくないものだった。




「ふぁーあ、………やばい、眠い………。」


大きな大きな、欠伸。


ああ、やっぱり、コイツ………女を捨ててる。

女っていうか、むしろ男だ。



見かけはそこそこ女なのに、中身はまるで男。


俺の分析、あながち外れていないのかもしれない。

間近で見ていたら、爆笑していたことだろう。


少し離れていて、ほんとに良かった。



「ぷっ、くくく………っ。」


何だ、あの女。


ウケる。

本気で笑える。



普通、ここで欠伸とかしないだろ。


今日は入社式で、人生の中でも節目となる日で。

そんな日に、あんなでっかい欠伸して、眠気を隠そうともしない。



我慢っていう言葉を知らないのだろうか。

いや、知っていても、我慢なんかする気もないのだろうか。



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