社内恋愛のススメ



昨日切ったばかりの髪は、普段よりも数センチは短い。


髪の色は、ダークブラウン。

透かさないと分からないほどの、落ち着いた茶色。



あんまり派手過ぎるとダメなのは、面接の時に言われていたし。

社会人として許される程度のナチュラルさが、意外と自分でも気に入ってる。


短く切ったばかりの髪を、ワックスで軽く跳ねさせて。



スーツは新品。

大学時代に貯めたバイト代をはたいて買った、俺の苦労の証。


初めて、袖を通すスーツ。


全ては、今日の為。



ザワザワと騒がしいホールは、今日の為にわざわざ借りられたものらしい。


結構大手の会社だから、新入社員もそれなりに人数がいる。

本社内にホールなんてないから、毎年小さめのホールを貸し切って、入社式をやっているらしいのだ。



大勢いる、新入社員。


俺も、大勢の中の1人だ。



「お前、どこの大学出身?」

「あ、同じ都内なの?」

「結構いいとこ、出てるんだなー。」

「どこに配置されるんだろ?変な部署じゃありませんように!」

「同じ部署だといいね!!」



呑気に会話を交わす、同い年であろう新入社員の群れ。


大卒で、同い年で。

これから同期になるヤツ達は、浮かれた気分をそのまま表へ出して騒いでいる。



いつか、この大勢の中から羽ばたいてやる。

頭1つ抜きん出て、他のヤツよりも出来る男になってやるんだ。


くだらない野望を抱いて、周囲をグルッと見回す。



彼女は俺と同じく、大勢の新入社員の中にいた。






それほど、離れていない位置にいる女子社員。

この群れの中にいるのだから、きっと俺と同じ新入社員であるはず。


斜め右に座る彼女に、ふと目が止まる。



< 372 / 464 >

この作品をシェア

pagetop