社内恋愛のススメ
更に残業が続くと、たまに化粧さえ忘れてくる。
眠気に弱いのかもしれない。
入社式の時ですら、堂々と欠伸をしていたくらいだ。
どんなに残業続きでも、他の女子社員はトイレに籠るのに。
出て来た時には、バッチリメイク。
完璧な姿に戻って、また長い爪でキーボードを叩いてる。
そんな時間があるなら、仕事しろよ。
同じ給料もらってるんだし、もっと真面目にやれよ。
そう言いたい。
だけど、有沢はトイレになんか滅多に行かないのだ。
行くのは、多分、本当にトイレで用を足したい時のみ。
だって、トイレから出て来たって、眉毛は消えたままだ。
「あー、すっきりした………。」
親父か、お前は。
清々しい顔して、デスクに戻る有沢。
「うぎゃー、こんなの絶対終わんないって!」
妙な奇声を発しながら、デスクから動こうとしない有沢。
嫌でも目につくのは、隣だからか。
それとも、別の何かがそうさせるのか。
指摘すれば、面白いくらいにプンプン怒るんだ。
出会った日の様に。
「おーい、有沢。お前、鏡見てこいよ。」
「はー?どうして………。」
面倒臭いんだな、コイツ。
顔にそう書いてある。
「化粧ハゲてる。眉毛ないし、鼻がテカテカしてるぞー。」
からかうと面白いんだもん、コイツ。
すぐ怒るし、すぐ拗ねるし。
だから、ついついからかっちゃうんだよな。
悪気はないんだけど。
「あー、うるさい!ほんとうるさい!!」
「教えてやってんだから、感謝しろよ。親切な同期が、隣で良かったな?」
「………1回、お前を殴りたい………長友。」
すぐ、これだ。
キレると、すぐに俺の苗字を呼び捨てにする。
クセみたいなものなのだろう。
怒った時の、有沢のクセ。