社内恋愛のススメ
「たまには、トイレにでも籠って化粧直してこいよ。」
「何でよ?」
「そんなんじゃ、男も出来ねーぞ?」
「はー?別にいいもん!長友くんには関係ないでしょ?」
言われて、気が付いた。
そうだ、俺には関係ない。
どんなに仲が良くても、有沢は同僚の1人。
同期入社で、席が隣で。
他に、何があるのだろう。
俺と有沢の間には、何があると言うのだろうか。
関係ないと言われて、胸が痛む理由。
そんなの、簡単だった。
関係あるよ。
お前が知らないだけ。
俺、有沢のことが好きだ。
男らしくて、女っぽさの欠片もなくて。
だけど、出会ったその日から、俺の目を釘付けにした女。
俺の心を掴んで離さない女。
思えば、入社式のあの時から、ずっと気になっていたのだ。
気が付いたら、目で追っていた。
どうしようもないほど、惹かれていた。
好きだ。
好きなんだ。
男っぽくても、女の子らしくなくても、それでも俺は有沢のことが好きなんだよ。
毎日毎日、会社に行くことが俺の楽しみになった。
夢中になれる仕事。
大変なことの方が多いけど、時間を忘れられるくらいに没頭出来る。
そして、夢中になれる女。
俺を飽きさせてくれない彼女。
それだけが、社会人になってからの俺の全てだった。
だから、すぐに分かった。
分かってしまった、とでも言うべきか。
有沢の好きな男。
あの有沢が、目で追う男。
有沢は、俺のことなんか好きじゃない。