社内恋愛のススメ
「か、上条さん!」
嬉しそうに、アイツの名前を呼ぶ有沢。
「…………じゃなくて、上条主任。どうしたんですか!?」
「主任なんて肩書き、付けなくてもいいさ。」
その言葉で、はっきりしてしまった。
有沢だけじゃない。
有沢の片想いは、一方通行なんかじゃなかったんだ。
俺とは違って。
有沢の想いは通じていた。
俺の予想が当たっているならば、きっと上条さんも同じ。
俺と同じく、有沢のことを想っている。
知りたくなかった。
こんな現実、欲しくなかったよ。
「………っ、でも………!」
「ここは、会社じゃないんだ。まして、今は就業時間内でもない。プライベートな時間だ。」
「有沢さんがいなくなったから、探しに来たんだ。」
「わ、私を探しに………?」
有沢の恋が叶う瞬間。
その場に、俺はいた。
「有沢さんの番号、前と同じ?」
「変わってないですけど………。」
「今度、食事にでも行かないか?」
「し、食事………って?」
「有沢さんの予定が空いている時で構わない。」
俺が誘えなかったデート。
あの男は、簡単に誘える。
大好きな女が、目の前で別の男に誘われている。
俺は、それを物陰から見ているだけだった。
「………。」
「ダメか?」
「全然大丈夫です!」
有沢が笑う。
俺では心の底からは笑わせてあげられなかった有沢が、あの男の前では笑う。
俺ではダメなのだと、知った瞬間。