社内恋愛のススメ



俺、見てたんだ。


あの日。

あの時。


あの男の歓迎会の夜、有沢を追って消えた上条さんを。



「外の空気、吸ってくる。」

「は?有沢、ちょっと待てって!!」


分かってたよ。

有沢が落ち込んでいたことは。



アメリカから帰ってきた上条さんは、みんなの注目の的。

新入社員からしたら、初対面のいい男。


上座に座る上条さんの周りには、人がたくさん集まっていた。

それも、あの男をあまり知らない新入社員の女ばかり。



近くに行きたいのに、近寄れない。

話すことすら、ままならない。


もどかしい距離に有沢の心が沈んでいくのを、俺は同僚として隣で見てた。



もっと笑え。

もっと飲め。


俺が笑わせてやるから。

俺が隣にいるから。


そんな思いに、有沢はやっぱり気付かない。



限界だったのだろう。

スッと立ち上がって、席を立つ有沢。


そんな有沢を追う様に、あの男までもが立ち上がったのだ。



「部長、少し席を外します。電話なので。」


そんなあの男の言葉を、誰も疑わない。

俺以外は。



「あー、こんな時まで仕事か………上条くんは!君らしいな。」

「………失礼します。」


そう言って立ち去る上条さんの後を、こっそり付いていった。



(何、やってんだろ………俺。)


分かってるよ。

分かってた。


目の前を小走りに歩く男が、向かう先。



それは、外。

有沢を見つけた上条さんが、有沢に近寄る。


座り込んでしまった有沢は、まだ気付かない。



止めてくれ。

そのまま、通り過ぎてくれ。


小さな願いは届かない。



「有沢さん?」


あの男が有沢に、そっと声をかけた。



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