社内恋愛のススメ



「んーーー、美味しい!」


ビールを一気に煽って、満面の笑みを浮かべる私。


仕事後のビールって、最高。

本当に、もう堪らない。


おじさん臭いけど、本気でそう思ってしまう。



疲れた体に、アルコールが回っていく感覚。

こんな感覚、学生時代には味わったことがなかった。


1日仕事を頑張った自分への、ささやかなご褒美。

だから、こんなにも美味しく感じるのだろうか。



何杯目かのビールを飲んで、ほろ酔い気分になった1時間後。


フワフワして、いい気分。

何を話しているかは分かっているけど、どこか地に足が付いていない感じになる頃。


隣に座る長友くんが、私の目を指差してこう言った。






「有沢、デカいぞ!」

「は?」

「お前、いつもより目がデカいぞ!!」


トローンとした目で、長友くんが私を見つめている。


酔っ払い、1名発見。

分かりやすいヤツだ。



「そんなことない。いつもと変わらないって。」


私はそう反論して、プイッと顔を背ける。



私の言葉は、嘘だ。

長友くんの方が正解。


いつもよりも2倍増しの睫毛が、瞬きする度に私の目の上で揺れる。



慣れない。

いつになっても、このフサフサ睫毛には慣れないものだ。


本当は、ちょっとだけ邪魔だと思ってる。



それでも止めないのには、理由がある。


私だって、女だ。

戸籍上も中身も、れっきとした女だ。


そりゃ、ちょっと前までは完全に女であることを忘れていたけれど。



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