社内恋愛のススメ
「………おはよー。」
怠そうに、適当に返事をする俺。
実際、かなり怠い。
キャンキャンうるさい新入社員の女は、俺の態度をものともせず、世間話まで始めやがった。
「そうだー、他の部署の社員に聞いたんですけどー、前にこのデスクを使ってた人って、左遷されちゃったって本当ですかぁ?」
何も知らないって、罪なことだな。
容易く、俺の過去に触れてくる。
ずっとずっと、俺の隣のデスクを使っていた女。
有沢 実和。
男らしいクセに、最高に可愛い彼女。
今は、その姿さえない。
彼女の残した残像が、俺の心をギュッと締め上げていく。
「あのさー、次の日が仕事って分かってるんだから、もっと考えて飲みなよ。」
二日酔いでグダグダの俺に、説教してた彼女。
「心配しないで、長友くん。大丈夫だから。」
強がって、傷付いた心を隠していた彼女。
「味はともかく、長友くんが料理出来るなんて………ちょっと意外。」
俺が作ったお粥を食べて、そう言っていた彼女。
忘れられない。
アイツとの思い出は、全部俺の中に残ってる。
「だから、こんな風に私の思い出を汚さないで下さい………。」
小さな声でそう言って、愛した人に別れを告げていた彼女。
「は?何、言って………。」
俺のキスに、戸惑っていた彼女。
「そのことで、長友くんにまで迷惑がかかっちゃったらどうするの?………そんなの、私、嫌だよ。」
自分が大変な状況に置かれていた時でさえ、俺を気遣ってくれた彼女。
「他の人のこと、好きとか言っちゃダメだよ………。本当に好きな人にだけ、そういうことを言ってあげなくちゃ………ダメ………なんだ………よ………!」
そう言って、涙を流していた彼女。
ずっと一緒にいたかった。
俺が隣で、有沢の心を支えてあげたかった。
好きだよ。
大好きだよ。
忘れることなんて出来ない。
思い出は昨日のことの様に、俺の中だけで眠り続ける。