社内恋愛のススメ

お前は知らないんだろうけど、有沢の話はうちの企画部ではタブーなんだよ。


みんな、有沢のことを知ってるから。

有沢がどういう人間で、どれだけ頑張っていたのか。


みんな、有沢のことを見てきたから。


信頼してるんだ。

有沢がいなくなってしまった今でも、ここにいるみんなは有沢のことを信じてる。



それに、うちの主任は、何と言っても噂の相手。


有沢を貶めた犯人。

有沢の心を傷付けた張本人が、そこにいるんだ。



新入社員にこんな噂話を吹き込むヤツなんて、ここにはいない。

他の部署の、有沢のことをよく知らない人間だけ。


企画部には、有沢のことを悪く言う人間なんていないんだよ。


バカめ。



「部長、こっち睨んでるぞ。」

「えっ？やだー！」


部長の存在をちょっと思い出させてやれば、新入社員の女は慌ててデスクに戻る。

単純なヤツだ。


本当は、部長はこっちなんか見ちゃいないんだけれど。



（あー、ほんと疲れる………。）


これなら、誰もいない方がマシだ。

空席のままにしておいて欲しかった。








有沢は、今、何をしているのだろう。

何を思っているのだろう。


彼女が飛ばされたという場所も、誰も教えてはくれない。

部長の口も異様に固くて、どんなに頑張っても口を割らない。



だけど、必ず探し出してみせる。


俺は、まだ聞いていない。


初めてのプロポーズ。

その返事を、有沢からもらっていない。



しつこいな。

諦めが悪いなって思うけど、それでも止められないんだ。


この気持ちだけは、どうしても。



見つけてみせる。

探し出してみせるよ。


だから、待ってて。

この空の下のどこかで、俺を。