社内恋愛のススメ



ここの営業部では、私はまだまだ新人。

年は上の方でも、仕事上では私が1番の下っ端。


下っ端の私のデスクは、営業部のフロアでも隅の方。

私の隣のデスクは、誰も座っていない。

空席なのだ。



「え?」

「有沢さんの隣でいいかな?有沢さん、悪いがいろいろ長友くんに教えてやってくれ。頼むな?」


部長にそう言われてしまったら、断れない。

断るつもりもないけれど。



長友くんの隣。

長友くんの1番近くにいられる立場。


その権利を他の誰かに譲る気なんて、ない。



スタスタと、私に歩み寄る長友くん。


ニヤニヤしちゃって。

悪戯っ子みたいな笑顔で、私のことを見てる。



「よろしくお願いします、有沢さん。」


有沢さんって。

よろしくお願いしますって、何なの。


有沢さんなんて、呼ばれたこともない。


長友くんは、私とは同期入社。

入社してからも、ずっと有沢と呼び捨てにされていたし。



今更、有沢さんとか呼んじゃって。

もう。


でも、そんな長友くんのことも好きだから困る。



からかってるんだ。

困る私を見て、楽しんでるんだ。


ほんと、子供みたいな人。

子供みたいなのに、ちゃんと大人で。


時に、私を惑わせる。

夢中にさせてくれる人。



「あはは………、よろしく。」







私の隣は、いつだって彼のもの。

長友くんのもの。


今までも、そう。

これからも、きっと同じなのだと思う。



長友くんの隣で、仕事が出来る。

いつも大好きな人の隣にいられるという、小さな小さな幸せの種。


その種は、社内恋愛が私に与えてくれたもの。





恋って、身近な所に潜んでる。

私が気付かなかった様に、実はもうその小さな種は、手のひらの中で芽吹いていたりするのだ。


運命の人。

そんな風に言ったら、大袈裟だけど。


その相手は、案外すぐ傍にいる。



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