社内恋愛のススメ



「今日から、この企画部に新入社員が入るんだ。」


ああ、そうか。

今日は入社式だったのか。


そんなこと、すっかり忘れていた。



自分が入社したのは、もう何年も前のこと。

忘れてしまいそうなほど、昔の話だ。


入社式なんて、関係ない。

ただの平社員の自分には。



「今日は、入社式でしたね。それが、どうかしたんですか?」


入社式の日。

うちの会社では、その日のうちに配属が決められる。


仮配属ではあるけれど、そのまま同じ部署に配置されることが多いのだ。

無論、配置替えを希望すれば、本人の希望に沿う形で配属先が変わる場合もある。



入社式の日に、新入社員が企画部に配属されるのは毎年のこと。

自分だって、そうやってこの企画部にやって来たのだから。


それが、どうしたのだろうか。

部長が笑って、僕に告げる。



「企画部には3人、新入社員が配属される。そのうちの1人を、君に教育して欲しいんだ。」


なるほど、そういうことか。

だから、僕に話しかけてきたのか。



僕は、役職もない社員。


だが、役職なんて関係ない。

それくらいの仕事をしていると、自負している。



プライベートの時間も全て注ぎ込んで、仕事をしているのだ。

他の人間が遊んでいる時間さえも、自分が抱えている仕事に全力で立ち向かっている。


見ている人は、きちんと自分のことを見てくれている。

部長も、その1人。


宴会では誰よりもはしゃぐこの人も、見抜いていてくれていたのだ。



「別に構わないですよ。」


今は、抱えている案件もそう多くはない。

いつも全力で立ち向かってはいるけれど、その他のことが何も出来ないほど、余裕がない訳でもない。


僕がそう答えた瞬間、部長の後ろから1人の若い女の子が顔を出した。



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